【全4話】他部署=ヨコを巻き込む〜人手不足時代の顧客対応 | 第3話

ー前回までのあらすじー

コンサルタントW氏は、岡本に「協力してほしい」ではなく「一緒に考えてほしい」と相談する姿勢の重要性を説いた。翌日、岡本は水原課長に「どんな条件がそろえば可能でしょうか」と持ちかける。水原の表情がふと変わった。断るための沈黙ではなく、考えるための沈黙だった。

登場人物

岡本 義郎(おかもと・よしろう/30歳)
新栄エンジニアリング営業部所属。入社7年目
水原 武史(みずはら・たけし/35歳)
同社技術部の課長。岡本の5年先輩
山本 沙織(やまもと・さおり/30歳)
同社の施工管理グループリーダー。岡本の同期
W氏
部門間連携を得意とする社外のコンサルタント

目次

【転の章】一緒に考える立場になってもらうには

数日後、岡本義郎はコンサルタントのW氏と向かい合っていた。

ひと通り経緯を説明すると、W氏は静かに尋ねた。

「岡本さんは、この案件を受注したい理由をどう考えていますか」

「営業として成果を上げたいからです。それに、菱光冷熱工業との関係を強化できれば、今後の受注にもつながるでしょう」

W氏はうなずいた。

「では、水原課長は、なぜOKしなかったのでしょうか」

「人手不足だからです。施工管理も設計も手いっぱいで、このまま受注すると品質や納期に影響が出る、と」

「なるほど」

W氏はメモ用紙を一枚取り出し、中央に一本の線を引いた。

左に「営業」、右に「技術」と書く。

「営業は受注が使命です。技術は品質と安全を守ることが使命です。役割が違う以上、判断が違うのは当然です」

さらに線の上に、大きく一つの円を書いた。

「でも、目的は同じですよね」

円の中央には、

【会社の信頼を守り、お客様に価値を提供する】

と書かれた。

「営業も技術も、この目的のために働いています。違うのは、そこへ至る役割だけです」

岡本は黙って図を見つめた。

これまで営業と技術は、相反する存在のように感じていた。

しかし、同じ目的に向かっていると考えると、見え方が少し変わる。

W氏は続けた。

「岡本さん、水原課長に何と言ってお願いしましたか?」

「『ぜひ協力してください』と……」

「それでは、水原課長には『仕事を増やしてください』と聞こえるのではないですか?」

岡本は思わず苦笑した。

確かに、その通りだった。

「では、何と言えばよかったのでしょう」

「相談するんですよ」

「相談?」

「ええ。例えば、『もし受注するとしたら、どんな条件がそろえば可能でしょうか』と聞いてみる。そうすると、水原課長は反対する立場ではなく、一緒に考える立場になります」

虚を突かれる思いだった。

「協力してほしい」と丁寧にお願いしたつもりだったが、相手はどう受け止めたか。

YESかNOかを返さなければならない。

現状ではNOとしか言いようがない。

自分の言い方は、それを迫るものだった。

岡本はメモを取りながら何度もうなずいた。

「岡本さんが望んでいるのは、技術部門を巻き込むことですよね」

「そうです」

「巻き込みとは、相手を説得することではありません。相手が持っている知恵や経験を借りながら、一緒に解決策を考えることなんです」

岡本は唸った。

そうだ。

営業も技術も、同じ会社の仲間じゃないか。

なのに「お願いします」というのはおかしいだろう。

では、どうすればいいか。

岡本の気持ちは固まっていた。


その翌日。

岡本は再び技術部を訪れた。

「水原課長、少しご相談があります」

前回とは違う切り出し方だった。

水原は顔を上げた。

「例の件か?無理なものは無理だぞ」

「はい。この案件、受注したい気持ちは変わりません。でも、無理にお願いするつもりはありません」

岡本は続けた。

「もし受注するとしたら、どんな条件がそろえば可能でしょうか。一緒に考えていただけませんか?」

「一緒に?」

水原は意外そうな表情を浮かべた。

しばらく黙って依頼書を見つめる。

やがて、ゆっくり口を開いた。

「そうだな……」

しばしの沈黙。

だが、感触は前回とはまったく違う。

断るためではない。

考えるための沈黙だと感じた。

「施工管理を一人確保できれば、可能性はある。それと、設計業務の一部を前倒しできれば、現場の負担もかなり減らすことができそうだ」

岡本は身を乗り出した。

「わかりました。では、菱光冷熱さんに工期や工程を相談してみます」

水原は小さく笑った。

「誰かに入れ知恵されたか?沙織か?条件が整うなら、こっちも協力したいんだ。同じ会社なんだからな」

そういうことだったのか。交渉とか懇願とか泣き落としとか、そんなことじゃなかった。一緒に考える。考えてもらう。そういうことだった。

営業と技術。

これまで平行線だった二人の視線が、初めて同じ方向を向いた瞬間だった。

次回

【結の章】「仕事は一人でするものじゃない」

菱光冷熱との調整、社内調整。すべてが動き出す。

そして、岡本は再びW氏を訪ね、この件で「変わったこと」について語る ――

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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