社外の相手を巻き込むとき、社内とは決定的に違う点があります。
それは「会社の方針だから」が通用しないことです。
今回の舞台は、全国400のフランチャイズ店を抱える外食チェーン。
相手は独立した経営者であり、こちらの指示に従う義務はありません。
新システムの全店導入という難題に、本部の担当者はどう向き合ったのか。
「ソトの巻き込み」の物語です。
沢井 明夫(さわい・あきお・35歳)
大手外食企業フレッシュディッシュ店舗支援チーム。新システム導入の担当者
宮川 早苗(みやがわ・さなえ・28歳)
チームの後輩。入社6年目。物事を多面的に考える
竹中 浩二(たけなか・こうじ・40歳)
チームの先輩。チームに落ち着きと安定感をもたらす
【起の章】 数百店舗が、動かない
効率化できることは確かなのだが……
「また、増えていないな……」
パソコンの画面を見ながら、沢井明夫は小さくため息をついた。
大手外食企業・フレッシュディッシュの沢井は、新しい発注・在庫管理アプリの導入を担当していた。
フレッシュディッシュは全国に400店舗を展開しているが、店はすべてフランチャイズ店。新しいアプリを使えば、発注や在庫管理の業務を大幅に効率化できる。実証実験でも、その効果は確認されていた。
チェーン本部としては、この機会に全店舗に新しいシステムを導入したい。
ところが、思うように進まない。
「メリットが正しく伝わっていないんだろうか?」
最初はそう考えた。
けれど、加盟店のオーナーたちと話してみると、どうも違う。

「便利になるのは、わかるんですよ」
「効率化できるなら、入れたほうがいいとは思っています」
そこまではいい。
問題は、そのあとだった。
「でも、うちのスタッフに使いこなせますかね」
「今まで長いこと電話とファックスでやってきましたから」
「前に新しい仕組みを入れたとき、現場がかなり混乱したんです。今回は慎重にしたいですね」
なるほど。
新しいアプリそのものに反対しているわけではない。
頭ではわかっている。でも、不安なのだ。
しかも、事情は店によって違う。
若いスタッフが多く、スマートフォンの操作に慣れている店もある。一方で、長年同じやり方で発注してきたスタッフが中心の店もある。
さらに、もう一つ難しい問題があった。
新しいシステムの導入には、加盟店側にも一部コストを負担してもらうことになっている。新しい発注・在庫管理アプリによって経営が効率化できるのだから、開発費を応分に負担してもらうことは無理のない話だと思う。ただ、それも導入反対の理由にならないとは言えなかった。
これが直営店舗であれば、「会社の方針だから」で押し切ることができるだろう。
しかし、相手はフランチャイズ店のオーナーだ。それぞれが独立した会社を経営する立場である。
同じ看板を掲げているとはいえ、システム導入を一方的に命じるわけにはいかない。
「三ヶ月以内に全店導入を完了せよ」
まず導入に積極的なオーナーに協力してもらう。それが沢井たち、店舗支援チームの方針だった。実際に使ってもらい、どれだけ業務が軽減されたかを他店に伝える。
成功事例があれば、「それなら、うちでもやってみよう」と考えるオーナーが増えるはずだ。
実際、少しずつ動きは出てきた。
だが――。
「現在、導入はどこまで進んでいる?」
定例の進捗会議で、上司から聞かれた。沢井は現在の導入店舗数を報告した。少しずつ増えてはいる。だが、400店舗というゴールから見れば、まだ先は長い。
「このペースだと、全店への導入までどれくらいかかる?」
沢井は答えに詰まった。正直なところ、見通しは立っていなかった。
「三ヶ月だ」
上司が言った。
「三ヶ月以内に、全店への導入を完了してほしい」
400店舗を、三ヶ月で。
会議を終えて席に戻ってからも、その数字が沢井の頭に残った。
加盟店のオーナーには、それぞれ事情がある。一店舗ずつ話を聞き、不安を解消し、納得してもらう。それが正攻法だと思っていた。
時間はかかるが、確実な方法だと思う。しかし、それでは間に合わない。
より効率的な展開手法を考える必要があった。
それからチーム一同、ミーティングを繰り返してきているが、なかなか名案が浮かばなかった。
沢井は、あらためて店舗の一覧を眺めた。
一店舗ずつでは、三ヶ月に間に合わない。行き詰まるチームの中で、後輩の宮川がある提案を口にする ――
監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

