外食チェーン・フレッシュディッシュの沢井は、全国400のフランチャイズ店への新システム導入を担当していた。
加盟店は反対しているわけではないが、不安から慎重になっている。
直営店と違い「会社の方針だから」で押し切ることもできない。
そこへ上司から「三ヶ月以内に全店導入」という指示が下る。
沢井 明夫(さわい・あきお・35歳)
大手外食企業フレッシュディッシュ店舗支援チーム。新システム導入の担当者
宮川 早苗(みやがわ・さなえ・28歳)
チームの後輩。入社6年目。物事を多面的に考える
竹中 浩二(たけなか・こうじ・40歳)
チームの先輩。チームに落ち着きと安定感をもたらす
【承の章】 400の「点」を「面」に変える
1店舗ずつでは間に合わない
沢井が眺めていたのは、全国に散らばる400の店舗マップだった。
一つひとつの店には、それぞれオーナーがいる。それぞれ地域特性があり、組織の事情がある。もちろん、新しいシステムに対する考え方も違う。
これまでは、その一店舗一店舗をどう説得するかを考えてきた。だが、どう考えても、それでは三ヶ月という期限には間に合わない。
「そもそも、一店舗ずつ動かそうとするから無理なんじゃないでしょうか?」
ミーティングで、チームの一人、宮川早苗が言った。入社6年目。まだ二十代だが、物事を多面的に考えることができる、優秀な後輩だ。
沢井は顔を上げた。
「どういうこと?」
「400店舗を、400の別々の店だと考えないほうがいいんじゃないかな、と思って」
店舗を一つずつ動かすのではなく、400店舗全体に同時に働きかける。
「点」ではなく「面」で動かす。
それまで沢井たちは、オーナー一人ひとりの不安を解消し、納得してもらうことばかり考えていた。つまり、「点」で考えていた。その発想を変えてはどうか、というのが宮川の意見だった。
理屈はわかる。しかし……
「具体的にどうすればいい?」
そこから、また議論が始まった。
「エリアごとに新システムの勉強会を開くというのは、どうですか?」
ピンとこない。エリアごとというのはいいが、勉強会というのは、あまりにオーソドックスで、しかも手間がかかる。
「効率的とは言えない気がするなあ」
「いえ、遠回りに見えて、実はそうではない気がします。勉強会はオーナーだけを対象にするのではなく、実際にシステムを使う店舗スタッフにも参加してもらうんです」
宮川の意見に、「それはいいな」と声が上がった。四〇歳の竹中浩二。チームに落ち着きと安定感をもたらす先輩だった。
「加盟店側が抱えている大きな不安の一つは、現場のスタッフが本当に使いこなせるのか、ということだよね。だとすればスタッフもターゲットにしてみる、というのはいいアイデアじゃないかな」
そこから八人のチームの議論に熱が入り始めた。
「ならば、説明するだけではなく、実際に触ってもらえばいい」
「勉強会をやりました、で終わらせない仕組みも必要だ」
「新しいシステムを使って発注するところまで体験してもらおう」
「勉強会に参加できないスタッフのために動画も作ったらどうか」
みんなの声に耳を傾けながら、沢井は手応えを感じ始めた。
勉強会は動き出したが
「みんなありがとう!いろいろなアイデアが出たね。一つずつ整理していこう」
沢井はホワイトボードに書いていった。
「宮川さんの言う通り、現場のスタッフも対象にした勉強会は有効だと思う。それに先行して、動画の作成を始めよう。YouTubeで、いつでも、それこそ勤務時間中にでも見て、正しい使い方を確認できるといいよね。そして、勉強会をやりました、で終わらせない仕組みだけど……」
「開催回数をあらかじめ決めて、参加人数、案内メールの開封数、動画の視聴回数まで、定量化すればどうかな」
竹中が、みんなを見回した。
「数字で追って、共有する。罰則は設けないけど、参加率の低いフランチャイジーにアラートを発する。丁寧にやる必要はあるけれど、プレッシャーを感じてもらう」

チームはすぐに動き始めた。動画制作はプロダクションに発注して、三週間後には納品された。
そのタイミングに合わせて、エリアごとの勉強会をスタートした。初回はチームメンバーが現地に赴き、講師を務めた。勉強会はエリア別に計五回実施。二回目からは、それぞれ集まってもらい、リモートで教えることにした。
チームメンバーのパソコンには、毎日のように開催状況と参加状況を伝える数字が上がってくるようになった。バラツキはあったが、総じて関心は高いようだった。
少しずつ、展開が始まっているように感じた。
だが、肝心の新システム導入店舗数は――。
まだ、期待したほどには増えていなかった。
監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

