【全4話】社外=ソトを巻き込む〜フランチャイジー全体をどう動かすか | 第4話

前回までのあらすじ

「面」で働きかけても導入数が伸びず、焦る沢井たち。

そこへ加盟店から個別の問い合わせが届き始める。

それは「導入するか、しないか」ではなく「どうすれば導入できるか」という問いだった。

沢井たちは「面」の施策を続けながら、上がってきた「点」の声に徹底的に応える方針へと切り替えた。

登場人物

沢井 明夫(さわい・あきお・35歳)
大手外食企業フレッシュディッシュ店舗支援チーム。新システム導入の担当者

宮川 早苗(みやがわ・さなえ・28歳)
チームの後輩。入社6年目。物事を多面的に考える

竹中 浩二(たけなか・こうじ・40歳)
チームの先輩。チームに落ち着きと安定感をもたらす

目次

【結の章】 400店舗が動き出す

加盟店同士で情報が伝わり始めていた

新システムの導入プロジェクトを始めて、二ヶ月が過ぎた。

沢井のパソコンには、その日も数字が上がってきていた。

勉強会の開催回数。参加人数。案内メールの開封数。動画の視聴回数。そして、新システムを導入した店舗数。

最初のころとは、数字の動き方が違っていた。

一店舗増え、また一店舗増える。

そんな増え方ではない。

「沢井さん」

宮川が画面をのぞき込んだ。

「これ、もう行けるんじゃないですか?」

沢井も同じことを考えていた。

もちろん、まだ導入していない店舗はある。個別の事情を抱えている店もあるし、最後まで慎重なオーナーもいる。

それでも、三ヶ月という期限までに何をすればいいのか、もう見えている。

残っている店舗がわかる。その店舗がどこまで情報に接しているかもわかる。勉強会に参加したのか。動画を見たのか。どんな不安を抱えているのか。

そして、個別に声を上げてきた店舗には、チームの誰かがすでに接触している。

「メドが立ったな」

沢井が言った。

「はい」

宮川が笑った。

三ヶ月前、上司から「全店導入」と言われたときには、400という数字が途方もなく大きく見えた。いま、その400店舗が一つの地図の上でつながって見え始めていた。

空気が変わった。

変化は、数字だけではなかった。

「隣の店は、もう使ってるらしいよ」

「○○店では、発注作業がかなり楽になったって」

「うちも、そろそろ入れたほうがいいんじゃないか」

そんな声が、加盟店のあいだから聞こえてくるようになった。

沢井たちが説明しているわけではない。加盟店同士で情報が伝わり始めているのだ。

導入する店が増え、「問い」そのものが変わった

新しい仕組みを導入するとき、最初の一歩は重い。

本当に便利なのか。

現場は混乱しないのか。

自分の店だけが先に導入して、損をすることはないのか。

しかし、導入する店が増えてくると、問いそのものが変わる。

「なぜ導入するのか」から、「いつ導入するのか」へ。

沢井は、最初に眺めていた店舗マップをもう一度開いた。

あのとき、そこに見えていたのは400の「点」だった。一店舗ずつ説得していたのでは間に合わない。だから、「面」で働きかけた。

エリアごとの勉強会を開いた。動画を作った。メールを送った。そして、それを「やった」で終わらせず、参加人数や開封数、視聴回数まで数字で追い続けた。

すると、その「面」の中から、

「うちの場合は――」

という声が上がってきた。

そこでは再び「点」に戻り、一店舗ずつ向き合った。

点から面へ。

面から点へ。

そして、点が増えていくことで、最後には面そのものが動き始めた。

「クリティカルマス」という概念がある。商品やサービスが市場や組織で一気に広く普及・浸透していくための重要な分岐点(臨界点)のことだ。全体の約半数を超えた時点で空気は大きく変わる。

この新システムも、少数派だった新しい取り組みが「使ってみると便利」「業務効率化に役立つ」として受け入れられたのである。

「何か、すごいことをやったわけじゃないんですよね」

宮川が言った。

沢井は笑った。

「そうなんだよな」

勉強会を開く。

動画を作る。

数字で追う。

声を上げた相手には、個別に向き合う。

一つひとつを見れば、どれも特別なことではない。

ただ、一つだけ違ったことがある。

400店舗が動くまで、やめなかった。

沢井は、パソコンの店舗マップを閉じた。三ヶ月という期限まで、まだ少し時間が残っている。

仕事は、まだ終わっていない。

けれど、もう沢井たちだけが400店舗を動かそうとしているのではなかった。

400店舗が、自ら動き始めていた。

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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