【全4話】他部署=ヨコを巻き込む〜人手不足時代の顧客対応 | 第4話

ー前回までのあらすじー

コンサルタントW氏は、岡本に「協力してほしい」ではなく「一緒に考えてほしい」と相談する姿勢の重要性を説いた。翌日、岡本は水原課長に「どんな条件がそろえば可能でしょうか」と持ちかける。水原の表情がふと変わった。断るための沈黙ではなく、考えるための沈黙だった。

登場人物

岡本 義郎(おかもと・よしろう/30歳)
新栄エンジニアリング営業部所属。入社7年目
水原 武史(みずはら・たけし/35歳)
同社技術部の課長。岡本の5年先輩
W氏
部門間連携を得意とする社外のコンサルタント

目次

【結の章】「仕事は一人でするものじゃない」

岡本はすぐに動いた。

菱光冷熱工業の担当者に連絡し、工期や設計スケジュールについて相談した。

「わかりました。人手の問題ですから、無理を押し付けることはできない。調整します。できると思います」

担当者は、そう言ってくれた。本当にいい会社だと思う。発注元ではあるけれど、「言うことを聞け!」という居丈高なところがない。協力会社を含めて、利害を共有しているコミュニティである、という意識なのだと思う。

同時に反省させられる。自分が技術部門に、なんと言って協力を迫ったか。

岡本は並行して、社内調整も進めた。施工管理担当者の配置を再検討してもらうのである。


数日後、再び営業と技術の打ち合わせが開かれた。

「うん、これなら進められるな」

資料を見ながら、水原が言った。

「設計を前倒しし、施工管理者を一人追加できるのであれば、品質も確保できる」

岡本は思わず笑顔になった。

「ありがとうございます」

「いや」

水原は首を振った。

「条件が整ったからだよ。最初から案件そのものに反対だったわけではないんだ」

その言葉を聞いて、岡本はようやく腑に落ちた。

営業は「受注したい」。

技術は「品質を守りたい」。

言葉だけを見れば対立しているように見える。

しかし、本当はどちらも会社の信頼を守ろうとしていたのだ。

違っていたのは目的ではない。

立場だった。

「よくやったな、岡本」

水原が、岡本の肩を叩いた。


数週間後。

このマンション案件は無事に受注が決まり、工事も予定どおりスタートすることになった。

もちろん、すべてが順調だったわけではない。途中で図面変更もあれば、工程の見直しもあった。

そのたびに営業と技術は顔を合わせ、相談し、一緒に解決策を考えた。

以前のように、

「営業が押し切る」

「技術が断る」

という関係ではなかった。


岡本は時間をつくって、W氏を訪ねた。その後の進捗を報告し、感謝を伝えるためだ。

W氏は言った。

「今回、一番変わったことは何だと思いますか?」

岡本は少し考えて答えた。

「水原課長が変わったんじゃありません。私が変わったんです」

それは、この件での実感だった。

「お願いする相手ではなく、一緒に考える仲間として向き合えるようになりました」

W氏は静かにうなずいた。

「その変化が、水原課長にも伝わったんです。人は、自分を尊重してくれる相手には協力したくなるものです」


菱光冷熱との打ち合わせのために会社を出たところで、山本沙織とばったり出くわした。

「よお!」

「岡本くん、菱光さんとの件、よかったね!」

「いや、すごく考えさせられた」

「なにを?」

岡本は、頭の中で言葉を探した。

「本当に協力関係をつくるには、どうしたらいいか、とかね。人手不足だからって諦めることはないし、『お願いします!』っていうだけじゃしょうがない」

「そうだよね」

「だから、一緒に考えてもらうっていうことなんだ」

山本は、しばらく地面を見ながら考えていたようだった。

「確かに。同じ会社なんだし、条件さえ整えられれば、いくらでも協力しあえるんだからね」

じゃあね、と言って別れた山本の後ろ姿を見やりながら、岡本はW氏の言葉を思い返していた。

もし受注するとしたら、どんな条件がそろえば可能でしょうか

これは、意識していなければ言える言葉ではない。

人員確保が難しいという、動かしがたい前提がある。しかし、だから諦める、というのは、あまりに芸がない。

ではどうするか、から仕事は始まるのではないだろうか。

そして、ではどうするか、は一人で考え込むことではない。

人を巻き込む。

他部門を巻き込む。

水原を巻き込むことができたのは、相談したからだ。

なんで、こんなにシンプルなことに気づかなかったんだろう。

だけど、こうも思う。

ぼくたちはしばしば、物事を難しく考え、しかも抱え込んでしまう。

仕事は一人でするものじゃない。

それが、いちばんの気づきだったかもしれない。

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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