【全4話】他部署=ヨコを巻き込む〜人手不足時代の顧客対応 | 第2話

ー前回までのあらすじー

新栄エンジニアリング営業部の岡本義郎は、大手設備工事会社・菱光冷熱工業から十八階建てマンションの見積依頼を受けた。今年度最大級の案件だが、技術部の水原課長は「人手不足で受けられない」と判断。営業と技術、それぞれの立場から歩み寄れないまま、岡本は諦めきれずにいた。

登場人物

岡本 義郎(おかもと・よしろう/30歳)
新栄エンジニアリング営業部。入社7年目
水原 武史(みずはら・たけし/35歳)
同社技術部の課長。岡本の5年先輩
山本 沙織(やまもと・さおり/30歳)
同社施工管理グループリーダー。岡本の同期
田中 健一(たなか・けんいち/30歳)
同社営業企画担当。岡本の同期

目次

【承の章】人手不足という物理的な限界をどう越えるか

菱光冷熱工業の案件を技術部門に断られてから一週間が過ぎた。

岡本義郎は、まだ諦めきれずにいた。

営業部に戻れば見積書が積み重なっている。

比較的、規模が小さい開発案件がいくつか動いていた。

新規の問い合わせも入る。建設業は今、活況を呈している。

それらをこまめに拾っていけば、今期の予算は達成可能だ。

それでも、机の引き出しにしまった菱光冷熱工業の見積依頼書が気になって仕方がなかった。

開発案件には、グレードというものがある。

小規模なものを低く見るわけではない。

それでも立地、デベロッパーの格、そして菱光冷熱。

これはグレードの高い案件なのだ。

だから、どうしてもとりたい。

何か打つ手はないだろうか。

しかし、名案は浮かばなかった。

なにしろ未曾有の人手不足なのだ。

人がどこかから湧いて出てくるなど、ありえない。


金曜日の夜。営業部と技術部の同期数人で、駅前の居酒屋に集まった。

新栄エンジニアリングは、部署は違っても同期同士の付き合いが密な会社だった。

忙しくて全員が集まることは少ないが、二、三カ月に一度、こうして酒を酌み交わすのが恒例だった。

乾杯からしばらくは、現場の失敗談やお客様とのやり取りで盛り上がった。

話題が一段落したところで、岡本が切り出した。

「実はさ、この前、菱光冷熱工業から十八階建てマンションの案件をもらったんだ」

「ああ、あれね」

施工管理グループの山本沙織がすぐに反応した。

「結局、だめだった?」

「進展なし」

山本はビールのジョッキを置いた。

「人手不足がね、本当に厳しいんだよ。現場に行くとひしひし感じる」

その通りなのだろう。

現場のリアルを言われると、返す言葉がない。

「施工管理が足りないし、協力会社も人が集まらない。現場では一人で二つ、三つの案件を掛け持ちしている人もいるの。あの案件を受けたら、誰かに無理をさせることになる」

岡本も、その事情は理解していた。

それでも、営業としては受注を諦めたくない。

「営業は『受けたい』って言うけど、技術は『受けられない』って言う。どっちも会社のためなのに、なんだか対立しているみたいになっちゃうんだよな」

誰に言うともなく漏らした言葉に、その場が少し静かになった。

すると、営業部の田中健一が口を開いた。

「そういえば、そんな話を得意にしているコンサルタントがいたな」

「コンサルタント?」

「去年、営業部の研修で講師をやってくれたWさん。営業だけじゃなくて、開発や技術とか、部門間連携なんかも得意らしいよ」

田中は同じ営業でも営業企画担当で、部門全体の業務調整や、能力開発なども担当している。

「ああ、知ってる」

山本もうなずいた。

「技術部でも一度講演を聞いたことがある。『部門が違えば見ている景色が違う』って話をしていた人でしょ?」

「そう、その人」

田中はスマートフォンを取り出した。

「コンタクトしてみようか?相談くらいなら時間を取ってくれると思うよ」

岡本は少し考えた。

営業経験は七年。営業については、自分なりに成果を上げてきた自負がある。

だが、今回ばかりは、自分だけで答えを見つけられる気がしなかった。

「紹介してもらえるかな」

田中は笑顔でうなずいた。

「もちろん。明日にでも連絡してみるよ」


帰り道、岡本は駅のホームで電車を待ちながら考えていた。

営業も、技術も、目指しているのは会社のため。

それなのに、なぜ話がかみ合わないのだろう。

その答えを知りたいと思った。

ただ、楽観はしていない。

ことは人手不足に起因している。

物理的に限界がある。

有能なコンサルタントでも、魔法が使えるわけじゃないだろう。

同期の友情に感謝しながら、岡本は自分を戒めた。

簡単に見つかる解などない。

田中には申し訳ないけれど、期待はしすぎないでおく。

電車が来た。人の波に体をこじ入れながら、「人はこんなに多いのにな」と心のうちでつぶやいた。

次回

【転の章】一緒に考える立場になってもらうには

コンサルタントのW氏との面談。彼は岡本の話を聞き終えると、静かにメモ用紙に一本の線を引いた ――

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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