この対談では、「巻き込み」という行為の背景にある考え方を、「巻き込み力のマネジメント」著者である渡邉氏が以前から大好きだというお笑いを通して掘り下げます。
ここで語られるのは、「こうすれば人を動かせる」という手法ではありません。
人を笑わせることと、人を巻き込むこと。
2つの行為の間にある共通点から、人に「伝わる」とはどういうことかが見えてきます。
読み終わったときに、答えが手に入るのではなく、人と向き合うときの新しい視点が残る。
そんな読書体験を目指しています。
渡邉 篤史(わたなべ・あつし)
株式会社AWコンサルティング代表。『巻き込み力のマネジメント』著者。剣道練士七段。数々の有名企業の組織開発コンサルタントとして20年以上の実績を持つ。
間杉 俊彦(ますぎ・としひこ/聞き手)
編集者・ライター。元「週刊ダイヤモンド」副編集長、人材開発編集部副部長。同書の構成・編集を担当。
宴会芸と仕事は、根っこが同じ
──間杉 今日のお題は「巻き込みと笑い」です。
ちょっと展開の予想がつきませんが、どういうことなんでしょうか?

私はお笑いが好きなんです。
若いころ、コンサルティング会社で営業をやって、その後は営業マネジャーもやりました。
営業成績が悪かったわけではありません。
しかし、ふりかえってみると業績には波があり、良い時もあれば、苦労した時もありました。
ただ、常々「これは会社で誰にも負けない」と思っていたものが一つありました。
それは、宴会芸です(笑)。
一発芸をやったり、司会をしたり、場を盛り上げたり。
200人ぐらいコンサルタントがいる会社でしたが、みんな人前で話すことには慣れている。
でも宴会だったら、自分が一番だと思っていました。
それが営業成績に直接つながったわけではありません。
でも、いま考えてみると、私が現在やっている仕事と根っこのところでは同じなんですよね。
──間杉 どういうことでしょうか。

研修をやる。
プレゼンテーションをする。
お客さんに話をする。
仕事も宴会も、形は違うけれど、やっていることの根本は一緒。
だから仕事の仕込みも研修も、私にとっては宴会のネタの仕込みと一緒なんです。
──間杉 言われてみると、そんな気もします。
研修やプレゼンも、宴会芸も、形は違っても「人の前で話し、伝える」という根っこは同じ。
お笑いの「月見そば」とは

以前、お笑いについて学ぶ市民講座に参加したことがあります。
そこで放送作家の方から聞いたのが、「笑いの月見そば」という話でした。
これは落語家が人を笑わせる基本として教わる原則で、話をこの構造で作ると人を笑わせることができるというノウハウです。
「つ・き・み・そ・ば」です。
「つ」は、つかみ。
「き」は、共感。
「み」は、見方の違い。
「そ」は、そうなんだ。
「ば」は、バカだなー。
最初のつかみでお客さんをネタの世界に引き込めなければ、その後もなかなか入ってきてもらえません。
つかみはネタの命です。
次に「そうそう、あるある」と共感させる。
お客さんがネタのストーリーや情景に沿って理解する段階です。
人はこの時、無意識のうちに「普通、その先はこうだよね」という固定化された思い込みをもとに話を聞こうとします。
その先に見方の違い、つまり芸人さんの「ズレた主張やリアクション」が出てくる。
お客さんはこのズレに対して「なんで?バカじゃない?」と意外性や違和感を感じると笑ってしまいます。
そのうえで、芸人さんからズレた主張の理由、つまり見方の違いが説明されるとお客さんは「あ、そんなふうに考えていたのか」と理解できる。
そして最後に、ダメ押しで最後のズレた主張をされることによってお客さんは「こいつ、ホントにバカだなぁ」と腑に落ちて、更に笑ってしまう。
人は「み」の、見方の違いによって笑います。また「ば」の、バカだなー。とはオチのことです。
──間杉 それは面白いですね。わかります。
笑いは「つかみ → 共感 → 見方の違い → そうなんだ → バカだなー(オチ)」という流れで生まれる。中でも、人が笑うきっかけになるのは「見方の違い」、つまりズレである。
巻き込みにも「心地よいズレ」がいる

そして、これは人を巻き込むときにも、すごくよく似ていると思うんです。
巻き込みの場合も、まず大事なのは「つかみ」です。
相手が興味や関心を持っている話なのか。
相手自身の体験やリアリティにつながっている話なのか。
そこがなければ、そもそも聞いてもらえません。
だから私は、相手に周波数を合わせるという意味で「チューニング」という言葉を使っています。
次に共感です。
「そうそう、俺が言いたかったのはそういうことなんだ」とか、「あるある、自分もそうだ」とか。
相手が「自分のことをわかってもらえている」と感じる。
巻き込みのコミュニケーションでは、これがすごく重要です。
でも、共感だけでも足りないんですよね。
その先に「見方の違い」がある。
相手が考えていることに対して、ちょっと違う見方を出してみる。
そのときに、心地よいズレがあると、人は「あ、面白そうじゃん」と思うんです。
まったく関係ない話をされたら「何言ってるの?」となる。
一方で、自分がすでに知っている範囲の話だけなら、新鮮さがない。
だから、大事なのは「適度なズレ」なんです。
私は、この適度なズレが新鮮さを生むんじゃないかと思っています。
──間杉 納得できる意外感、ということでしょうか。

営業でも同じだと思っています。
お客さんから信頼される営業の人というのは、サービス精神が旺盛なんですよね。
決して手ぶらで相手のところに行かない。
手土産を持っていくという意味じゃありません。
「こんな情報がありますよ」とか、「この間の件ですけど、こんなことも必要じゃありませんか」とか。
相手の立場に立って、何か一つ持っていく。
私は最近、研修で「気働き」という言葉もよく使います。
できることを、できるときに、できる範囲でやればいい。ちょっとした気働きをする。
その積み重ねが、いいコミュニケーションにつながっていく。
大型の営業案件でも、うまくいっている人たちは、お客さんの期待のほんの半歩先に行こうとしています。
アイデアでもいい。
資料一枚でもいい。
まだ形になっていなくてもいい。
この「半歩先」も、「心地よいズレ」に近いんだと思います。
巻き込みでも、まず相手に「チューニング」し、共感を得ることが出発点。そのうえで、相手の考えから少しだけずれた新しい見方や、期待の「半歩先」を差し出すと、人は「面白そうだ」と感じる。
「伝わる」とは「受ける」こと
──間杉 渡邉さんは、コンサルの仕事で、いつも「月見そば」を心がけているんですか?

いえ、「月見そば」という言葉で考えているわけではありません。
むしろ僕には、一種の強迫観念みたいなものがあります。
それは「滑ったらどうしよう」ということです。
いまだに夢を見るんですよ。「やべえ、明日からの仕事、何も準備できてねえ」って(笑)。
長くこの仕事をやっていますから、準備が十分でなくても、そこそこ話すことはできます。
でも、それでも「滑らないだろうか」ということは気になります。
たぶん私の中では「伝わる=受ける」なんです。
正しいことを淡々と話せばいい、というところにはモノサシを置いていません。
感動した、でもいい。納得した、でもいい。
できれば笑わせたい。
聞いている人がピンと来ない。
しらっとしている。
それでは、私にとっては伝わったことにならないんです。
いま私は、「月見そば」をビジネス版にするとどうなるかを考えています。
現時点では、こういうイメージです。
関心――「自分に関係あるの?」
共感――「そうそう、そうなんだよ」
納得――「なるほど、そういうことか」
決断――「よし、やってみよう」
お笑いと違って、最後にオチをつける必要はありません。
相手の関心に合わせ、共感してもらい、そこにちょっとだけ新しい見方を持ち込む。
その心地よいズレによって、「なるほど」が生まれ、「よし、やってみよう」に変わる。
私は、そこに人を巻き込むコミュニケーションの本質があるんじゃないかと思っています。
正しいことを淡々と話すだけでは、伝わったことにならない。「関心 → 共感 → 納得 → 決断」の流れの中で、心地よいズレが「なるほど」を生み、「よし、やってみよう」へとつながっていく。
(構成・聞き手 = 間杉俊彦)

