他部署の協力が必要な仕事が増えてきたんだけど、みんな忙しそうで頼みづらいんだよね。断られるんじゃないかって…
私なんか『また来た』って顔をされることもあって。上手く協力をお願いできる人っているよね。どうしてだろう?
なるほど。よくある悩みだね。でも、実は”上手に頼む”以前に、もっと大切なことがあるんだ。今日はそのコツを一緒に考えてみよう
皆さんは、こんな経験はありませんか?
- 「他部署に協力をお願いしたけど、いつも断られてしまう…」
- 「部下に指示を出しても、なかなかやる気を見せてくれない」
- 「プロジェクトを任されたけど、メンバーの協力が得られない」
最近の仕事では、このような「人を巻き込む力」が、とても重要になってきています。
その理由は簡単です。会社の仕事が昔に比べて複雑になり、一人や一つの部署だけでは解決できない課題が増えているからです。例えば、新しい商品を作るときも、営業部門、開発部門、製造部門など、様々な部署の協力が必要です。
しかし、ここで多くの人が勘違いしてしまうことがあります。それは「巻き込み力=上手にお願いする力」だと考えてしまうことです。
確かに、丁寧にお願いすることは大切です。でも、本当に必要なのは、それだけではありません。
実は、巻き込み力に優れている人には、ある共通点があります。
それは「相手の立場に立って、相手が何に困っているのか、何を実現したいのかをよく理解している」ということです。
例えば、ある営業マネージャーの田中さん(仮名)は、新商品の開発を依頼する際、まず開発部門の現状をよく観察します。開発部門が人手不足で困っていることや、来月までに別のプロジェクトを終わらせなければならない状況を知った上で、「では、私たちの営業部門から2名応援を出しますので、その分の時間を新商品の開発に使っていただけませんか?」と提案したそうです。
このように、相手の状況を理解した上で、Win-Winの関係を作れる提案ができる人が、実は「巻き込み力が高い」と評価される管理職なのです。
では、このような「巻き込み力」を身につけるには、具体的に何をすればよいのでしょうか?今回は、以下の内容について、順を追って解説していきます。
- なぜ単なる「お願い上手」では不十分なのか
- 相手の立場を理解するための具体的な方法
- 実践で使える「巻き込み」のテクニック
- よくある失敗例と対処法
巻き込み力は、決して生まれ持った才能ではありません。誰でも、正しい方法を知り、実践することで必ず身につけることができます。一緒に、その方法を見ていきましょう。
管理職のための巻き込み力の本質的な理解
私、いつも丁寧に説明して、笑顔でお願いするようにしてるんだけど…
私も相手の予定を確認して、資料も作って、できるだけ負担をかけないように頼むようにしてるのに
なるほど、二人とも”丁寧にお願いする”ことに力を入れてるんだね。でも、ちょっと視点を変えてみない?相手が今、どんな世界に生きているのか、そっちにも目を向けてみよう
「お願いが上手な人」と「巻き込み力のある人」は、実は全く異なります。
この違いを理解することが、真の巻き込み力を身につける第一歩となります。
よくある巻き込み方の失敗パターン
多くの人が陥りやすい巻き込み方には、こんなパターンがあります:
- 完璧な企画書を作って説明する
- 相手の予定に合わせて丁寧に依頼する
- お菓子を持って行ってお願いする
- 上司を通じて協力を要請する
一見すると、これらは「配慮の行き届いた」アプローチです。
しかし、なぜかうまくいかない。その理由は意外と単純です。
なぜ「丁寧なお願い」では不十分なのか
例えば、ある総務部の山田さん(仮名)は、新しいオフィスレイアウトの件で各部署に相談に行きました。最初は丁寧な資料を作り、ていねいに説明して回りましたが、どの部署からも積極的な協力は得られませんでした。
しかし、アプローチを変えてみたところ、状況は一変します。山田さんは、まず各部署の日常業務を観察することから始めました。すると、営業部では急な来客対応に困っていること、開発部ではチーム打ち合わせのスペースが足りていないことなど、各部署固有の課題が見えてきました。
そこで山田さんは、「オフィスレイアウト変更」という自分の課題を押し付けるのではなく、「各部署の課題解決のチャンス」として提案し直しました。その結果、各部署から積極的な意見や協力が得られるようになったのです。
効果的な巻き込みのための新しい視点
実は、巻き込み力の本質は以下の3つの要素にあります:
観察力
相手の日常業務、抱えている課題、望んでいることをしっかり観察します。机上の想像ではなく、実際に現場に行って見ることが大切です。
理解力
観察したことをもとに、なぜそうなっているのか、どうしたいのかを深く理解します。表面的な状況だけでなく、その背景にある思いまで理解することを目指します。
提案力
相手の課題解決と自分のゴールを結びつける提案をします。「お願い」ではなく、「一緒に解決しませんか?」という姿勢が重要です。
重要なのは、相手を「協力してもらう対象」としてではなく、「共に課題を解決するパートナー」として見ることです。そのためには、まず相手の世界を理解することから始めましょう。
次章では、この「相手の世界を理解する」ための具体的な方法について、詳しく見ていきます。
効果的な巻き込みのための3つの視点
相手の世界を理解するって言われても、具体的にどうすればいいんだろう
私も、他の部署のことまで考える余裕がないかも…
そうだね。でも、実は日々の何気ない会話や様子の中に、大切なヒントが隠れているんだ。今日はその”観察のコツ”を伝授するよ!
前章で、巻き込み力の本質は「相手の世界を理解すること」だとお話ししました。では、具体的にどのように理解を深めていけばよいのでしょうか?
1. 観察力:相手の立場・状況を深く理解する
日常的な観察のポイント
- 朝の様子を見る
例えば、経理部の机の上に毎月初めになると書類が山積みになっている。これは、月次決算の時期で最も忙しいタイミングかもしれません。 - 会話の内容に注目する
「先月から新しいシステムを使い始めたけど、まだ慣れなくて…」といった何気ない愚痴には、課題が隠れています。 - 定例会議での発言を観察する
「締切に間に合わない」という発言の裏に、人手不足や優先順位の問題が潜んでいるかもしれません。
ある製造部の主任は、毎朝10分だけ早く出社して、各部署のフロアを歩くことにしました。その途中すれ違った同期との会話で品質管理部が新しい検査基準への対応に苦労していることを知ります。結果、自部署の改善案を提案する際の重要なヒントを得ることができました。
これはたまたまではなく、この主任が自分以外の部署のことを知ろうとしたことで、必然的に起こったことです。
2. 共通価値の発見:接点を見出す
部署間の共通課題を見つける
- 業務フローの確認
自分の部署の業務が、他部署にどのように影響しているのかを図に書き出してみましょう。 - 組織の目標との関連付け
各部署の個別の課題が、会社全体のどの目標に関連しているのかを整理します。
営業部のある管理職は、開発部との打ち合わせで「顧客満足度の向上」という共通のゴールに気づきました。
これにより、単なる「新製品の開発依頼」から、「顧客満足度を一緒に高めるプロジェクト」として提案することができました。
3. 創造的な提案:Win-Winの関係構築
効果的な提案の作り方
- 相手のメリットを最初に
「これが実現できれば、〇〇部署の△△という課題も解決できます」 - 具体的な支援策を示す
「私たちの部署から週に2日、人員のサポートを出させていただきます」 - 段階的なアプローチ
いきなり大きな協力を求めるのではなく、負担のかからない所から始めます。
人事部の佐藤さん(仮名)は、新しい評価制度の導入で各部署の協力を得る必要がありました。
まず、各部署の課題をヒアリングし、新制度に「業務効率化の評価項目」を組み込むことで、マネージャーたちの積極的な参加を促すことができました。
- 相手の部署の繁忙期・閑散期を把握していますか?
- 相手が抱える具体的な課題を3つ以上言えますか?
- 自分の提案が相手にもたらすメリットを明確に説明できますか?
- 相手の立場で考えたときの懸念事項を予測していますか?
- 自分の課題解決を優先しすぎる
- 表面的な観察で判断してしまう
- 相手の都合より自分の締切を優先する
- 一方的な提案に終始する
相手の世界を理解するということは、一朝一夕にはいきません。しかし、日々の小さな観察や気づきの積み重ねが、やがて大きな理解につながっていきます。
巻き込み力についてはこちらの記事も参考にしてください↓
次章では、これらの視点を実践的なスキルとして身につけるための具体的な方法について解説していきます。
管理職の巻き込み力強化実践方
相手の状況を理解することは分かったけど、実際の行動に移すのが難しいな…
相手の課題は見えてきたんだけど、どうやって話を切り出せばいいのかな
そうだね。では、明日から使える具体的なテクニックを紹介するよ。大事なのは、小さなことから始めることなんだ。
この章では、巻き込み力を実践的なスキルとして身につけるための具体的な方法をご紹介します。すぐに実践できる3つのステップから見ていきましょう。
STEP1:相手を知るための「聞き方・見方」
①何気ない会話から始める
- 朝の挨拶時に「今日はどんな予定ですか?」と声をかける
- 昼食時に「最近どんな仕事が多いですか?」と尋ねる
- 帰り際に「今日は一日どうでしたか?」と話しかける
②”悩み事メモ”を作る
相手との会話で出てきた課題や悩みを、以下の3つに分類してメモします:
- 緊急の課題(今週・今月中に解決が必要)
- 中期的な課題(半年以内に対応したい)
- 理想・願望(いつか実現したいこと)
STEP2:関係構築のための「小さな協力」
①まずは自分からお手伝い
- 会議の議事録を率先して取る
- 必要な資料を事前に用意しておく
- 困っている様子を見かけたら声をかける
②「できること」リストの作成
自分や自部署ができる協力を具体的にリストアップします:
- 人的リソース:「データ入力なら数名派遣可能」など
- 場所の提供:「自分たちはオープンスペースで打ち合わせできるので会議室を優先的に使ってもらう」など
- 情報提供:「顧客の声をまとめたレポートを共有可能」など
③実践例:システム部門のある主任の場合
新システム導入の前に、業務フローが複雑な部署の単純作業を手伝うことから始めました。その過程で業務の流れを理解し、システム化すべきポイントを具体的に把握し、導入までがスムーズに。
STEP3:効果的な「提案・依頼」の仕方
①3C形式での提案
- 現状(Current):「今、○○という状況で…」
- 課題(Challenge):「そのため、△△という課題があり…」
- 解決策(Solution):「こんな方法で一緒に解決できないでしょうか」
②具体的な声かけ例
❌ 悪い例:
「新プロジェクトへの参加をお願いできますか?」
⭕ 良い例:
「先日お話しされていた在庫管理の課題、実は私たちのプロジェクトで解決できるかもしれません。15分ほどお時間いただけませんか?」
- 今日、他部署の誰かと雑談をした
- 相手の部署の課題を1つ以上見つけた
- 誰かの仕事を少しでも手伝った
- 自分から情報共有をした
- 相手の立場に立って提案を考えた
成功のための3つのポイント
- 継続的な観察
一度の会話や観察では見えないことも、継続することで見えてきます。 - 小さな協力の積み重ね
大きな協力を得るには、まず小さな協力から始めることが重要です。 - 相手の課題解決を意識した提案
自分の要望を押し付けるのではなく、相手の課題解決につながる提案を心がけます。
このような地道な積み重ねが、やがて強い信頼関係を築き、スムーズな協力体制につながっていきます。次章では、これらのスキルを組織全体に広げていく方法について解説していきます。
管理職から巻き込み力を組織の文化に
少しずつ、巻き込み力のコツが分かってきた気がする
でも、一人で頑張っても限界がありそう。チーム全体で取り組めたらいいのに…
その通り!巻き込み力って、組織全体で育てていくものなんだ。最後はその方法を考えてみよう
巻き込み力は、一人ひとりのスキルであると同時に、組織全体で育むべき文化でもあります。この章では、チーム全体の巻き込み力を高める方法について解説します。
部下の巻き込み力を育成する
①実践的なトレーニング機会の提供
- 小規模なプロジェクトのリーダーを任せる
- 他部署との調整役を経験させる
- 成功・失敗体験を共有する場を設ける
②具体的な指導方法
- プロジェクト開始前:相手部署の状況をヒアリングするよう促す
- 実行中:定期的な振り返りを行い、気づきを促す
- 終了後:学びを言語化し、次に活かせるようにする
組織全体の協働を促進する仕組みづくり
①部署間交流の機会創出
- 部署部門役職横断のクロスファンクショナルな勉強会の開催
- 部署間ローテーションの実施
- 共同プロジェクトの定期的な立ち上げ
②情報共有の仕組み作り
- 各部署の課題や成功事例を共有するポータルサイト
- 週次での部署間の状況共有会議
- 誰でも参加できるランチミーティング
実践例:製造業A社の取り組み
月に1度、「クロス座談会」と呼ばれる部署横断のミーティングを開催。各部署の課題や成功事例を共有し、自然な協力関係が生まれる土壌を作りました。
成功事例の共有と学びの循環
①成功事例のデータベース化
- 具体的な状況
- 取られたアプローチ
- 得られた成果
- 重要なポイント
②定期的な振り返りの実施
- 月次での成功事例共有会
- 四半期ごとの好事例表彰
- 年間での事例集作成
まとめ〜管理職に求められる真の巻き込み力〜
なるほど。巻き込み力って、結局は相手のことを本当に理解しようとする姿勢が大切なんだね
うん、単にお願いが上手くなることじゃないんだ
その通り!何よりも大事な、「相手の世界を理解する」ことから始めてみよう。
今回学んできた「巻き込み力」の本質は、次の3点に集約されます。
- 観察と理解から始める
相手の立場や状況を深く理解することが、効果的な巻き込みの第一歩です。表面的なコミュニケーションテクニックではなく、真摯な理解と共感が重要です。 - Win-Winの関係構築
一方的な依頼や要望ではなく、お互いの課題解決につながる提案を心がけることで、持続的な協力関係を築くことができます。 - 組織文化としての定着
個人のスキルを超えて、組織全体で協働を促進する文化を育てることで、真の組織力が発揮されます。
これからの管理職に求められること
今後の管理職には、単なる「仕事の割り振り」や「進捗管理」を超えた、より本質的なマネジメント力が求められます。その中核となるのが、本稿で解説してきた「巻き込み力」です。
相手の世界を理解し、共に課題を解決していく。この姿勢を持ち続けることで、自然と周囲の協力を得られる管理職へと成長していくことができるでしょう。
巻き込み力の向上に、終わりはありません。日々の小さな実践を積み重ねながら、より良い組織づくりを目指していきましょう。