【全4話】年上のベテラン部下を巻き込む | 第3話

ー前回までのあらすじー

課長の鎌田は山岡と月1回の1on1を続けている。だが、新しい仕事の話題になると、山岡は理屈で線を引く。「(若手とベテラン)をつなげるのは、課長の仕事じゃないですか」── そう言われ、鎌田は言葉に詰まる。そんな中、ある客先工場でトラブルが起きた。

登場人物

鎌田 光也(かまだ・みつや/42歳) 
立川電機の生産管理課長
山岡 祐介(やまおか・ゆうすけ/52歳) 
ベテラン社員。安全管理と現場対応のプロ
相沢 翔太(あいざわ・しょうた/29歳) 
IoT技術に詳しい若手

目次

[1−3 転の章]チームに起きた小さなトラブル

問題が表面化したのは、食品工場の包装ラインで次世代型制御ユニットを試験運用したときだった。

相沢は通信ログと稼働データの確認を担当し、山岡は既存設備側の安全確認を担当する。

自ずと決まった役割分担である。

作業が始まって間もなく、遠隔監視システムに小さなアラートが出た。

「搬送モーターの負荷が上がっています」

相沢はタブレットを見ながら言った。

「通信は切れていません。センサー値も許容範囲です。設定値を少し調整すれば収まると思います」

そばにいた作業員が首をかしげた。

「でも、朝から音が違うんだよ。ときどき、何かが引っかかるような音がする」

相沢は画面を見直した。

数値は上がっているものの、異常と判断するほどではない。

少し離れた場所で安全カバーを確認していた山岡に声をかけた。

「山岡さん、音を聞いてもらえませんか」

「画面じゃなくて、音か」

山岡はラインの横にしゃがみ込み、耳を近づけた。

包装機が動き、製品を載せたベルトが流れていく。

しばらくして、山岡は立ち上がった。

「たしかに、少し引っかかっている。負荷が上がるのは、この音がした直後か」

「ほぼ同じタイミングです」

山岡はタブレットをのぞき込んだ。

「なら、機械側だけの話ではないかもしれんな」

「一緒に見てもらえませんか」

「そこから先は相沢が見てくれ。おれは安全側を確認する」

山岡は既存設備との接続部を指さした。

「開けて見れば確認できる。ただし、ラインを止めることになる」

客先の設備担当者が難しい顔をした。

「今日は生産予定が詰まっているんです。できれば止めずに様子を見たいですね」

相沢がタブレットを山岡に向けた。

「負荷が上がるタイミングと、音が出るタイミングを一緒に見てもらえませんか」

山岡は画面をちらりと見た。

「ログは君の担当だろう」

「でも、音との関係が——」

「私は、引っかかる音がすると言った。あとはデータを見て判断してくれ」

山岡はそう言うと、再び安全カバーの確認に戻った。

相沢は設定値を一部調整した。

アラートは消え、音も目立たなくなった。

「収まりましたね」

設備担当者はほっとした表情を見せた。

山岡はラインを見たまま言った。

「機械は、調子が悪くても黙ることがある。消えたから直ったとは限らんよ」


数日後、同じラインで再びアラートが出た。

今度は設定を変えても収まらず、生産を一時停止して確認することになった。

原因は、新しい制御ユニットではなかった。

既存の搬送装置との接続部分に小さな機械的抵抗が生じていた。

作業開始直後だけ部品の動きが鈍くなり、その負荷を新しいシステムが異常の兆候として拾っていたのである。

相沢が見ていた負荷データも間違ってはいなかった。

山岡が聞いた引っかかる音も間違ってはいなかった。

しかし、二人はそれぞれの担当範囲から情報を示しただけで、それを一つの現象として確かめようとはしなかった。

客先の設備担当者が言った。

「山岡さんが音に気づいていたなら、あのときもう少し見てもらえばよかったですね」

山岡の表情が固くなった。

「止めて開ける必要があるとは言いました」

「責めているわけではありません。ただ、山岡さんなら最初に気づいてくれると思っていたので」

山岡は返事をしなかった。


後日、社内で振り返りが行われた。

品質保証部の担当者が、慎重に口を開いた。

「相沢さんはデータを見ていた。山岡さんは機械を見ていた。どちらも担当は果たしています。ただ、今回の答えは、その間にあったということですね」

山岡が腕を組んだ。

「役割を分けたのは会社でしょう。あとから連携が足りないと言われても困ります」

会議室が静かになった。

鎌田には、その言葉が責任を押し返すためだけのものには聞こえなかった。

山岡は、客先から期待されていた。その期待に応えられなかったことを、誰より気にしているように感じられた。

山岡が新しい仕事を避けるのは、単に職人的な頑固さからではないのかもしれない。

鎌田は初めて、そう考えた。

次回

[結の章] 45分かけて出てきた本音

説得せずに、本音を聞き切ってください ── ある人物より、そう助言を受けた鎌田は、ちょっとした覚悟をもって、次の1on1に臨んだ ――

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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