【全4話】年上のベテラン部下を巻き込む | 第2話

ー前回までのあらすじー

立川電機の生産管理課に、安全管理のプロであるベテランの山岡がいる。だが課長の鎌田は悩んでいた。山岡は経験の範囲内では細かく口を出すのに、新しい領域になると、頑として踏み込もうとしない。「山岡をどう巻き込むか」── それが今、鎌田の頭から離れない問題である。

登場人物

鎌田 光也(かまだ・みつや/42歳) 
立川電機の生産管理課長
山岡 祐介(やまおか・ゆうすけ/52歳) 
ベテラン社員。安全管理と現場対応のプロ
相沢 翔太(あいざわ・しょうた/29歳) 
IoT技術に詳しい若手

目次

【1−2 承の章】1on1をしているのに、本音に届かない

鎌田は管理職として、部下とのコミュニケーションを
大切にしている。

月に一度、すべてのメンバーと1on1を実施し、業務の進捗確認だけでなく、困っていること、今後やってみたい仕事、チームへの要望などを聞くのである。

この日、山岡は、いつものように開始時刻の一分前に会議室へ入ってきた。

手帳を机に置き、腕時計を確かめてから口を開く。

「三十分でしたね」

まるで、延長は認めないと先に釘を刺しているようだった。

「既存ラインの安全確認はどうですか」

鎌田が尋ねると、山岡は手帳を開いた。

「三号ラインの搬送部で、作業員の動線が重なっている。あれは直したほうがいい。事故が起きてからでは遅いですから」

「協力会社との段取りは?」

「済んでいます。夜間作業なので、入退場の申請も出しました。先方はまた担当者を替えたようですが、引き継ぎが雑ですね。会社は人を替えれば仕事も切り替わると思っている」

山岡の言葉は具体的だった。

現場の作業員がどこで立ち止まり、誰がどの手順を省きがちなのか。

協力会社の誰に話を通せば、仕事が早く進むのか。

鎌田が知らないことまで、山岡は把握していた。

「相沢さんはどうですか」

「頭はいいですよ」

山岡はそこで一度、言葉を切った。

「ただ、機械より先にタブレットの画面を見る。画面は逃げませんが、異音は待ってくれない」

「そこは山岡さんから教えてもらえませんか」

「もちろん教えています。聞くかどうかは本人の問題です」

褒めているのか、突き放しているのかわからない。

山岡はいつも、そんな言い方をした。


鎌田は、その日の本題に入った。

「次世代型制御ユニットの試験運用ですが、やはり山岡さんにも中心に入ってもらいたいと思っています」

山岡は手帳から顔を上げた。

「またその話ですか」

「相沢さんだけでは、客先の既存設備まで見切れません」

「だから、必要なところは私が見ますよ」

「必要なところだけではなく、最初から一緒に——」

山岡は首を振った。

「何でも一緒にやればチームになると思ってる?」

鎌田は言葉に詰まった。

「……そういう意味ではありません」

「相沢はログを見る。私は機械を見る。つまり役割分担です。得意な人間が得意なところをやればいい」

「その二つがつながっていないように見えます」

「つなげるのは、課長の仕事じゃないですか」

山岡はそう言うと、手帳に目を戻した。

反論しようと思えばできた。

しかし山岡の言葉には、一理あった。

相手は十歳以上年上で、現場経験も鎌田より長い。強く押しすぎると、意地になって拒むかもしれない。

「あと五分です。ほかに確認することはありますか?」

その日の1on1も、そこで終わった。

一見、普通に会話をしている。けれど、肝心なところへ近づこうとすると、山岡は理屈で線を引く。


数日後、相沢が山岡の席へやってきた。

「明日の食品工場の件なんですが、注意したほうがいいことはありますか」

山岡は図面を引き寄せた。

「あそこの包装ラインは、朝一番だけ機嫌が悪い」

「機嫌、ですか」

「寝起きの悪い機械だと思えばいい。立ち上げから三十分は、音をよく聞け」

山岡は図面の一点を指さした。

「それから、既存設備との接続部。前にも引っかかったことがある」

「通信ログには残っていますか」

「知らん。画面の話は相沢の担当だろう」

「山岡さんも一緒に見てもらえませんか」

「おれは保護者じゃない。何かあったら電話しろ」

相沢は苦笑しながら礼を言った。

山岡は相沢のことを気にかけていないわけではない。

必要な助言もする。

しかし、一緒に責任を引き受けようとはしない。

鎌田は二人のやり取りを聞きながら、チームの中で役割が偏り始めていることを感じていた。

山岡を巻き込むには、どうすればいいだろう。

鎌田がそう考え始めたころ、客先工場でトラブルが起きた。

次回

【1−3 転の章】チームに起きた小さなトラブル

食品工場での試験運用。相沢のデータも、山岡の聞いた音も、間違ってはいなかった。だが二人はそれを「一つの現象」として確かめようとはしなかった ――

監修=渡邊篤史
執筆=間杉俊彦

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